フロアの階数を確認したりして、隣の工藤の部屋を念のため、スペアキーで開けてみる。
「やっぱ、工藤の部屋じゃん」
ぶつぶつ言いながら、もう一度恐る恐るドアを開けると、なあーーーーん、と可愛いナータンがとっとこ駆けてくる。
とりあえずナータンを肩に、良太はしばし呆然と自分の部屋を見回した。
炬燵は、ある。
ナータンのトイレやご飯のトレーもある。
だが、それ以外の全てがまるで嘘のように変貌していた。
「小公女セーラかよ、俺は!」
重厚なモスグリーンのカーテン、モスグリーンの絨毯。カーペット、ではない。
落ち着いたダークブラウンのクローゼットにデスクに椅子。
デスクには新しい電話器、フロアスタンドに、何より、部屋の真中にでんと居座っているのはダークブラウンのヘッドボードも新しいベッドだ。セミダブルサイズだろう。
見慣れたパイプベッドやパイプハンガーは影も形もない。
「だれだよっ! んな、勝手に、人の………まだ十分使えるって言ったのにっ!」
誰だと口にしなくても、心当たりは約一名しかいない。
「あ、鈴木さん!」
「あら、おはよう、良太ちゃん」
勢い込んでオフィスに降りた良太は、鈴木さんののんびりした声に迎えられた。
「おはようございます、あのっ……」
「夕べナータンにご飯あげたら、綺麗に食べたわよ。今度のキャットフード、おいしいのかしら」
良太は、はあ、と生返事をする。
「あ、あの、夕べ、その、俺の部屋、何か変わったことありましたか?」
「良太ちゃんのお部屋? いいえ、まさか泥棒でも入ったの?」
ぶんぶんと首を横に振る。
その逆なんだけど。
「別にいつものとおりだったわよ。ベッドの上にスーツ脱ぎ捨ててあったから、ハンガーにかけておいたのはあたしだけど」
「あっ、そうですか、ありがとうございます」
では、鈴木さんが帰ったあとか。
「そういえば、平造さんが珍しく工藤さんのお部屋にあがって行ったわね」
そうか。それで謎が解けた。
工藤がいなくても平造さんが………
待ちかねた電話は、夕方、スタジオで編集の作業中にようやくかかってきた。
良太は外に出ると、思わず声を上げる。
「あんた、何で、勝手にあんな………」
『何だよ、お前のお歳暮のお礼だろ?』
嫌味かよっ! 今年はでもカミュのナポレオンを張り込んだんだからナっ!
下手くそな字でお歳暮と書いたら、またしても『OLDMAN』のマスターにかすかに笑われた気がするが。
「だって、パイプベッドだってまだ使えたのに……あんたがとっかえたかっただけだろっ!」
『あんなやわなもんでやったら、潰れる……』
ぶちっ! と切ったのは、夕べの今日であれやこれやが怒涛のように舞い戻り、頭のてっぺんから沸騰しそうになった良太の方だった。
おしまい