上弦の月 4

back  next  top  Novels


「えらく最近順調そうじゃないか、会社の方」
 探るような目で荒木は続けた。
「そこそこだ。小田事務所の方だろ、最近羽振りがいいのは」
「バカ言え、やたら時間のかかる刑事訴訟ばっかやってるって、小百合に文句言われっぱなしだ」
 小百合は事務所に籍を置く司法書士である。小田は今や事務所を仕切っている姉御肌の顔を頭に浮かべ、煙草をくゆらせながらソファに背をもたせかける。
「こないだ二人目が生まれた小田にしろ、優雅に山内さんみたいな美女をはべらせているお前にしろ、どのみちワイフに出て行かれた上、宮仕えの俺にはどっちも羨ましい限りだ」
 本気で口にしているとは思えない口調で、荒木が言った。
「ひとみならいくらでもお前にくれてやるぜ」
「ちょっと高広、勝手にひとをやりとりしないでよ。まあ、でも荒木さんなら考えてもいいけど」
 ひとみは荒木に軽くウインクしてみせる。
 しばらくして下柳がそろそろ帰ると言い、さりげなくひとみを促して立とうとした時、良太が顔を見せた。
「あれ、ヤギさん、ひとみさんも一緒だったんですか? あ、須永さん、大丈夫です?」
 酒には今一つ弱い須永がちょっとふらついている。
「早かったな」
「ええ、すんなり新幹線乗れたみたいで、今二人とも送ってきました」
 良太は工藤にそう報告し、小田にぺこりと挨拶する。
「荒木だ、検事の。広瀬良太、うちの会社の今は司令塔ってやつだな」
「はじめまして、広瀬です。お噂はいつも。すごい検事さんだって」
 司令塔なんぞと工藤に紹介されて良太は尻尾があったら勢いよく振っていそうに嬉しくて、元気よく荒木に挨拶する。
「後輩だったよね?」
 荒木はそんな良太に笑みを浮かべて聞いた。
「いや、後輩なんて、口にするのもおこがましいです、俺、野球バカだったから」
「工藤のお守りは大変だろう?」
「え、いえ……それほどでも…」
「何だ、その言い草は」
 良太の返事を工藤が軽くいなす。
 昨日、久しぶりに荒木や小田と飲むことになったから紹介すると工藤が言ってくれたことに、良太は有頂天だった。
 小田には既にいろいろと世話になっているのだが、荒木は検事という立場上、なかなか顔を合わせることが難しい。ただ、たまにかつての同期や仲間で飲むことにしていて、三人のスケジュールが合ったから、と工藤は良太を引き合わせたのだ。
 車を置いてくる予定だったのだが、飛行機のトラブルでアスカたちを迎えにいかねばならなくなり、良太はそのまま店に乗りつけた。
 工藤の大切な仲間に自分を紹介してくれるというだけで、良太はなんだか自分の存在理由が工藤の中で上がった気がしたのだが。
「そういや、もう一人の後輩、例の突っ走りやすい先生は元気か?」
 今度は工藤抜きで飲むわよ、と帰ろうとするひとみにしっかり念を押されていた良太は、荒木の言葉がひっかかって顔を向ける。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ

ようこそ、お立ち寄り有難うございます。お気楽ハピエンBL小説です。