花びらながれ29

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 確か、イタリアでもそんなことあったよな………
 次の撮影が始まる時までトムを撫でてやり、良太は「頑張れよ」とポンポンと軽く身体を叩いて送り出した。
 まるでトムはそれがわかったかのようにいい動きをして、今度はしっかりOKが出た。
「良太、どんなテクニック使ったんだ? 犬とか飼ってねぇよな?」
 撮影が終わると、トレーナーより良太のところへ戻ってきたトムを見て、小笠原が不思議そうな顔をした。
「飼ってるのはネコだけだよ」
 何だかトムを手なずけたというよりは、トムに気に入られたといった方がいいかもしれない。
 小笠原もトムを撫でながら、「これはロケの時も良太に来てもらわないとダメじゃね?」などと言う。
 いや、それ、ムリだし。
 心の中で良太はきっぱり否定する。
 とにかくこれ以上、仕事を増やさないでほしい。
「これから犬猫関係はお前の担当にするか、な」
 ふいに背後で聞きなれた声がして、良太は振り返る。
「工藤さん、来てたんですか。いくら何でもこれ以上俺に押し付けないで下さいよ」
「急用だ、良太、行くぞ」
 で、いきなりこれである。
「え、待ってくださいよ」
 良太は、お先に失礼します、と佐々木や川崎に挨拶し、名残惜しげなトムをちょっと撫でてから、慌ててたったかスタジオを出る工藤を追った。
「会社に戻れ」
「あ、はい、いったい何なんです? 急用って」
 後部座席にどっかと座った工藤は険しい顔をしていて、良太の質問にも答えようとしなかった。

 


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