花びらながれ32

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「有吉さん、その人の立場を考えて黙ってろって言ったらしいんです。事件の夜、有吉さん、渋谷に呼び出されてから十分ほどで自宅に戻ったところへ、その人が訪ねて行ったらしくて。実はその人は、何か脅迫を受けていて」
「脅迫?」
 渋谷がまた強い口調で尋ねた。
「口を閉ざしていないとどうなるかわからないぞ、って書面で届いたそうなんです。それ、持ってくるって言ってました」
「何でそいつ、もっと早く証言しないんだ、あの男は」
 イライラと渋谷は口にした。
 手持無沙汰のまま二十分ほどが過ぎた頃、表にタクシーが止まり、やがてドアを開けて市川が入ってきた。
「えっと、アナウンサーの市川さん?」
 渋谷も彼女が現れたことで状況がわかったらしかった。
 市川は、口を閉ざしていないとどうなるかわからないぞ、という強迫状が送られてきたこと、怖くなって有吉の部屋を訪ねたこと、一時間ほど話して、部屋に帰るのが怖いという市川を、有吉がタクシーで送ってくれたことなどを語った。
「タクシーで、有吉さんも一緒にあなたのマンションまで送って行ったんですね? どこのタクシーだか覚えていますか?」
「これ、領収書です」
 市川は脅迫状と領収書を渋谷に渡した。
「お預かりします。脅迫されたことで思い当たることはないんですね?」
「……全然、思い当たらなくて……すみません」
 念を押すように聞いた渋谷に、市川は首を横に振った。

 


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