千雪が言うのに、工藤は苦笑した。
「もう、堅苦しいお作法は抜きでごゆっくりなさいませね。パイは京助さんが焼いたんですのよ」
小夜子は良太が今まで出会った女性の中で一番素敵な女性だと思う。
でも、千雪はやっぱりひどく魅力的だ。特にあんな風に微笑を向けられたら、誰だって。
んで、工藤さんなんか、あ~んな優しそうな目で仲よさそうにさ。
千雪と工藤が楽しげに言葉を交わしているのを、良太はじっと見ていた。
「そーんなに、千雪が気になる?」
背後からこそっと囁かれて、良太はドキリ。
「おどかすなよ、涼」
「さっきからずっと、千雪のこと見てるからさ」
「え、そりゃ……誰でもちょっとクラッとくるよなって思って。あれだけ美人だと。男でもさ。その上、小説書く法律の先生で、やることなすことカッコいいときてる。言うことなしじゃん」
やけくそ気味に、良太は言い放つ。
「でも、あの京兄貴と千雪って割れ鍋に綴じ蓋的なとこもあってさ。アスカもさ、わかってるんだよ、きっと」
「そんなの、せつなくないか?」
「うん、そうだねぇ」
のほほんと微笑む涼に、良太はそれ以上言葉を重ねることはできなかった。
だって、想いは消すことはできないじゃないか。どうしようもない想いは、ひとり、ただ抱いているだけでしかないとしても。
俺はアスカや工藤のように、想う人を端で見守ることなんか、できるだろうか。
そんなにできた人間じゃない。
傍にいたい。
―――――――――――だけどな。