清風 7

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ネコの世話に良太の部屋を訪れた鈴木さんがそう言っていた。
「工藤さんも時々きていたみたいよ」
何気ない鈴木さんの言葉に、良太はゲッと思う。どおりで朝から工藤の機嫌が悪いわけだ。
CMと違って、ドラマのクレジットには名前が流れる。芸名なんかもなかったから役柄そのままの名前をもらった『和泉秀也』は、週刊誌やワイドショーの片隅を少々賑わしたりした。
CMの時はそんなやつどこか行っちゃいましたで何とか免れたものの、今度ばかりは『和泉秀也』が青山プロダクションの広瀬良太とかぎつけた者もいて、電話では拉致があかないとばかりにオフィスにまで雑誌記者やらルポライターがおしかけてきたりと、しばらく良太は、外回りをするのもビクビクものだった。
面倒臭いから、開き直って、あれは臨時の仕事でもう俳優やCMの仕事をやることは金輪際ないのだときっぱり言ってしまいたいと宣言してみるが、そんなことをすれば逆に騒ぎを大きくするだけだ、と工藤に一蹴される。
せっかくあの時のことはすっかりきっぱり水に流して、公私共に工藤と楽しくいきたいじゃん、などと思っていたのに。
身から出たさびってやつだけど、どうして俺ってこう、後先考えずにバカばっかやるんだろ。
『良太ちゃんって、とっきどき、マジおバカちゃんなんだよね。T大出てるなんて全然思えなぁい』
年末にも大ボケをかまして、ケラケラと奈々にも笑われたばかりだ。
自分の仕事が長引き、工藤を迎えに慌ててスタジオに行くと、ドラマの収録を終えたばかりの大澤流がいて、『工藤なら、山下町でロケだから、そっちにすぐこいってさ』と言われた良太は、すぐさま車をかっ飛ばした。が、首都高に上がってまもなく夕方のラッシュ時に引っかかり、にっちもさっちも行かなくなってしまう。
そこへ、工藤から携帯に連絡が入った。
『山下町だぁ? バカヤロ! 脳みそ叩きなおせ! 世田谷のどこにそんなものがある! 山下公園だ!』


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