好きだから 62

back  next  top  Novels


 確かに手塚の言い方であれば今世紀始まって以来の美人という佐々木だが、身長は一八〇センチはあり、小顔でモデル体型なのだ。
 直子を誘おうとはしていたものの、佐々木を、今世紀始まって以来の美人などと言うこの男は、確か、子供のころから佐々木の親衛隊をもって任じていたと、佐々木が面白そうに言っていなかったか。
 ちょっと、面白いどころか、それって子供の頃からの佐々木ちゃんのストーカー?!
 離婚したって話だし、今、フリーってこと?
「あ、直ちゃん、はよ行きたいんやろ? もう上がってええよ、お疲れさん」
 半分本気ですごく好きなライブでも、これは佐々木について行った方がいいのではと思い始めていた直子だが、佐々木にそう言われてしまうと、言うべき言葉が見つからなくなる。
「ほな、腹も減ったし、藍屋でも行く?」
「そうだな」
 藍屋と聞いて、直子は少し胸を撫でおろした。
 少なくともホテルのレストランなどではなかったからだ。
 直子は先にオフィスを出たのだが、それでもまだ元熊五郎のことが気になって仕方なかった。
「植山と明らかに違うのは、少なくとも佐々木ちゃんがあの熊五郎を嫌いじゃないってことよ!」
 歩きながら直子は携帯を取り出した。
「どうしよう、良太ちゃん、佐々木ちゃんが!」
 いきなり直子にそんなことを言われ、電話の向こうの良太もいつぞやの植山騒動の不穏な成り行きを思い出したのかもしれない。
「佐々木さんが? 何かあったのか?」
「うーん、何かあったってわけじゃないんだけど、やっぱ心配なのよ、何か胸騒ぎがして」
 夕方になって気温が下がったオフィス街は帰宅を急ぐ人々が行き交い、すっきりと雲一つない深い紺色の空を背景に煌煌とした満月がビルの間から顔を出していた。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ