好きだから 64

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「まあ、間違いじゃねぇがな。自分の子供が熱を出してるのに、あんたはどっかの国のわけわからない未開の地に行くのかって、ワイフに責められて」
「確か奥さんもお医者さんやなかった?」
「ああ、学生ン時知り合って、ええとこのお嬢でな。ま、たまに息子と合わせてくれるだけマシ?」
 佐々木は苦笑した。
「医院の方は、お姉さんが継ぐんかと思うてたけど」
「皐月? あいつ、急にへき地医療に目覚めてな、ちょうど俺が帰国したのをいいことに、とっととどっか南の島へ行っちまって」
「はあ」
 なるほどと、佐々木はあまり顔はよくは覚えていないが、ただ姉弟ともにやることが豪快で、はっきりした性格だったと子供心に感じていたその面影を頭に思い描く。
「オフクロは別に俺らにあとを継げとかいわねぇし、浮気した婿養子を叩き出して、一人で気楽にやってきた医院で、まあ、自分の代で終わってもよしと思ってるみたいで、俺がまた海外行こうが何も言わねぇよ」
「そうなん?」
 手塚医院は確か明治あたりから代々続いてきた医師の家系だと聞いていた。
「まあ、俺がいるうちにとかって、あちこち旅行行きまくってるけどよ。さっきギリシャから帰ってきた」
「そら、お元気で何よりやな」
 同じ七十代でも、久乃は一人でも動ける人だろうが、口と矜持は負けないかも知れないが、淑子は誰かが傍らにいないと生きていけない人間だ。
 佐々木自身も淑子を置いて家を出るとか、考えたこともなかった。
 パラサイトと言われようが、根性なしと言われようが、そういうもんだと思っていた。
「お前んとこは、オフクロさん、どうせ、あと継げとかって言うんだろ? 佐々木っていや、あのあたりじゃ昔から結構な地主だもんな」
「過去の話やろ。俺もオヤジに似て甲斐性ないし、オカンにしてもそやし、雑木林、税金対策で半分ほど売った。あと継ぐようなもん、あれへんて」
「そうかあ、だよな、勝手に土地上がってくれるからな」
 そやった、土地を沢村が買うたんやった。

 


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