好きだから 67

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「ええのに、すぐそこやし」
「バーカ、お前、危なっかしいんだよ」
「大丈夫! 道路の真ん中に寝転がったりせえへんて!」
 ケラケラ笑う佐々木はマフラーを巻きなおす。
「さすがに寒う! にしても、俺らの子供の頃はこんな、目いっぱいビルとか建ってなかったやろ。俺とこも隣のデカい屋敷も周りをぐるりとマンションやら建ちよってな」
「ちっぽけな俺んちなんかも、ビルのはざまよ。道路に面してるから、かろうじて日当たりもまだ何とかだ」
「時間は止まるいうことはないからな。俺らも年くうわけや」
 ようやく佐々木は家にたどり着くと、生垣の裏木戸を開ける。
「懐かしいな、この裏木戸。しかし鍵くらいつけろよ」
「んなもん、どこに木戸があるかもわかれへんやろ、葉っぱで隠れとるし」
「にしても、ここの雑木林、えらく伸びたなあ。草ぼうぼうじゃねーか」
 人一人歩けるくらいの道があって、少し歩くと佐々木の離れに着いた。
 表門からよりこちらからの方が離れには近い。
 沢村も浩輔に教わってからというもの、離れに来るときは、いつもこの木戸を利用していた。
 最後に沢村がここを訪れたのはいつだったか、ペナントレースが終わった頃だったか、何だか随分昔のようにも思えてしまう。
 離れのドアの前で、佐々木はセカンドバッグから鍵を出そうとするのだが、かなり酔いが回っているようでしばらく中を掻き回し、ようやく鍵らしきものを見つけて取り出した。
「稔さん、送ってもろてコーヒーでも、ていうべきとこやけど、あかんわ、結構酔うてるみたいで」
 ふう、と大きく息をついて鍵をドアに差し込もうとするが、定まらない。
 ぐいと、腕を取られてドアに背を向ける形になって、佐々木は焦点が今一つ合わない目で見上げたと同時に、ドン、と男の両腕が佐々木を挟み込むようにドアに伸びた。
「稔さん?」


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