好きだから 69

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 そんな春日にも、まだ沢村のことは話してはいない。
 それは自分のことより、やはり沢村の立ち位置のことがあったからだ。
 その沢村は今頃どうしているのだろう。
 電話で話したのももう一週間以上も前になる。
 パワスポの八木沼との対談は、持ち帰った仕事をやりながら画面をところどころ見ていた。
 あんな風にシックなスーツでも着て黙っていれば、落ち着いた大人に見えないこともないが、良太によれば口を開くと滅多なことを言ってしまいそうなので、なるべく喋らないようにしていたら、クールだなんだと言われるようになったらしい、全く詐欺だと思う。
 初めて会った時は、てっきり自分より大人だと思ったのに。
「くっそ、電話したろか。お前が会いに来いへんから男にキスされよった言うて」
 口走ることが支離滅裂で、まだかなり酔っているらしい。
 携帯を見ると既に午前一時を過ぎていた。
 画面の沢村の文字をしばらく見つめていたが、佐々木はふっと笑う。
「んなこと、言うたかてや!」
 ふっと眠りに落ちそうになって、「あかん、風邪なんか引いとる場合やないんや」と佐々木はかろうじて立ち上がると、寝室まで何とかたどり着くとベッドに突っ伏した。

 


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