好きだから 70

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 ACT 8

 寒気団が南下して西高東低の冬型の気圧配置が強まり、強い北西の季節風が関東全域を駆け抜けたために体感温度をひたすら下げていた。
 午後十時を過ぎた頃、首都高を汐留JCTに向かう一台のベンツがあった。
最高級サルーンなどと日本では称されるこのSクラスのセダンを運転しているのは、大柄の、着ているスーツが物語るようにどこかしら育ちの良さが伺える男だ。
 ただし、彼がこの車を選んでいるのは、ブランドというより体格がいい自分がゆったり乗れて、頑丈でかつ最先端のテクノロジーをフルに導入しているという理由からだ。
 海岸通りに入った頃、ハンズフリーにしている携帯が鳴った。
「沢村? 俺、今、電話大丈夫か?」
 相手は声ですぐにわかった。
「ああ、今、帰りだ。どうした、良太」
「何、またトークショーかなんか?」
「いや、バットのことで岐阜まで行った帰りだ。もうすぐ着く」
「そうか、だったら着いたら詳しく電話するけど、ちょっと例のオッサン、動きがあったんで」
「じゃ、部屋に着いたらこっちからかける」
「あ、いや、悪いが、駐車場に着いたら車からかけてくれないか?」
 良太の妙な言い回しに、沢村は訝しく思いつつも、わかったと言って電話を切った。
 動きがあったとは、膠着状態からやっと抜け出せるかもしれないということでもあり、それが何を意味するのかは別として、沢村は少しほっとしていた。
 ここのところ、どうしようもない八方塞がり状態で、何もできないもどかしさに業を煮やしていた。
 


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