好きだから 73

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 水波清太郎が主演の予定だったドラマはスポンサーの記念番組のため、水波のカットだけとはいえ、ほぼ三分の二を撮り直すことになった。
 ここで思いがけず座長の枠が転がり込んだのは、大澤流、映画監督と女優の両親を持ついわゆる二世俳優である。
 中川アスカも大澤ならドラマでの共演は今までもあったのだが、どちらもかなり我儘一杯、と言うところがミソだろうか。
 それでも水波ほどアクが強くはなく、どうせ二世だからなどとこき下ろされながらもここ数年それなりに力をつけてきていた。
 CMも同じく水波とアスカだったところを大澤とアスカで、こちらはイチから創り直すことになった。
 撮り直して即放映となった『スリリングレモン』までは行かなくても、猶予はさほどないのだ、イチからやり直しというのはさすがに佐々木にとってもきつかったのだが、その方が、誰かを当てはめるよりはそれこそスッキリと仕上げられそうだった。
 スポンサーはタイヤ業界トップを走るブライトンタイヤ、アイスバーンでもきっちり止まる高性能スタッドレス。
 コンセプトは安心、安全、超高性能。
 実際は車種や機能、運転者の運転技術などを踏まえてのことではあるが、佐々木自身、車はボロでもタイヤだけは多少高くても国産のいいものを履きたいので、あえて口には出さずとも、このメーカーのものを好んで使用している。
 特に冬の雪道など走る時はタイヤがモノを言う。
 減り具合にもよるが、そろそろ三年、換え時かもな、などと佐々木は愛車を思い浮かべた。
ジャストエージェンシー時代は、仕事で東北、北海道という時も、フェリーで函館まで行って道内を巡ることもあったし、年式は古いが遊びにももちろん欠かせない大事な愛車だ。
今回ブライトンの上の方からの御達しでタイヤを履かせる車がボルボの最新型というのも、佐々木は心の中でなかなかわかる幹部じゃないかと、仕事に力も入っていた。
それが水波のお陰でケチがついた格好になり、ブライトン側もかなり怒っていたが、佐々木としても寝耳に水だったのだ。

 


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