好きなのに 103

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 とにかく妙な誤解を解いておかなければと、グラスの酒を少し飲んでから佐々木は口を開いた。
「言うとくけど、確かにトモちゃんの個展には行ったけど、それだけやで? 今更、俺と彼女がどうかなるなんてあるわけないやろ」
 沢村の横顔はしかし未だに怒ったような表情を崩そうともしない。
「トモちゃんが置いてったって、トモちゃんトモちゃんって、あんた泣いてたじゃないか」
「は? 俺が? いつ?」
 佐々木はまじまじと沢村を見た。
「初めて会った夜」
 佐々木は沢村の顔すらうろ覚えなほど酔っていたらしいが、今更ながらにそんな醜態を晒していたとは。
「酔って本音が出たんじゃないのか」
「そら………好きおうて、一緒に暮らしてていきなり別れるとか言われたら、ショックやろうが。しかも俺と一緒にいたら絵が描けないからっていうのが理由で、お互い喧嘩したわけでも嫌いになったわけでもないのに。その時つくづく思い知らされた。どんな幸せも、いきなり終わりが来ることもあるんやって」
 佐々木は酒を口にしながら、続けた。
 沢村は苦々しい顔をしたまま、またグラスに酒を注ぐ。
「けど、もう時間は流れてて、トモちゃんとは別の子に気持ちは動いてたし、彼女のことはもう過去になってるねんけど、その時の痛みみたいなもんだけが残ってんね。それがまた振られたことでぶり返しよって、泣きが入ってもただけやろ」


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