好きなのに 29

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 近所のフラワーショップで、ピンク系のバラを大きな花束にしてもらい、二人はタクシーを拾った。
「友香さんって、どんな人?」
 佐々木が手にした花束から、けして大人の女、という感じではないと直子は想像する。
「ああ、直ちゃん、会ったことなかったっけ? そっか、直ちゃん入った年に別れたからな……その頃はファンシー系っていうか、そんな感じかな。でも、変わったかもしれないね」
 そう話す佐々木が何となく寂しそうに見えるのは、気のせいだけではないだろう。
 直子は振ったことはあっても、振られたことはない。
 それが愛し合っていたはずの妻に、いきなり去られたら心が折れてもおかしくはない。
 言葉に出したりはしないが、直子にしてみれば、佐々木を知れば知るほど、いくらなんでも嫌いになったわけではないのに、こんな優しい佐々木を苦しめた友香という人間に対して、どうしても許せない思いがあった。
 だから植山のような輩は別としても、せっかく愛し合っている沢村と佐々木の間に波風を立てるようなことをして欲しくはないのだ。
 銀座のみゆき通りにある老舗のギャラリー「ろーまん」は、通りに面した二階にあり、二人がドアを開けると、広めのギャラリーには数人の客が入っていて、静かに絵を見ながら言葉を交わしていた。
 入ってすぐの一角に、二〇号の明るい日差しが散りばめられた花の絵があり、赤丸がぽつんとついていた。
 あとはブルーを基調とした八〇号から一五〇号までの油彩が並んでいる。
 どれが友香だろうと中を見回すまでもなく、すぐにわかった。
 中年の男に絵を見ながら説明をしているらしい友香は、ふわりとカールした長めの髪、淡いピンクのフレアのワンピースが白い肌によく似合っている。
 靴は低めのヒールなので、背は直子くらいだろうか。
 一見してそれこそ三十路には見えない可愛らしい女性だ。
 その友香が、二人を振り返った。
 と思うや、「周ちゃん!」と口にして佐々木に駆け寄り、いきなり抱きついた。


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