好きなのに 30

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 直子は咄嗟の展開にしばし虚をつかれた。
「きてくれないかと思った……」
 佐々木は戸惑いながらも、友香を抱き寄せ、優しくその頭を撫でた。
「かんにん、ここんとこ忙しうて」
 唖然と二人を見つめてしまった直子だが、やっと冷静さを取り戻した。
「はじめまして、佐々木さんのオフィスで事務をしております、池山と申します」
 脱いだコートを手に、極めて冷ややかな声で直子が言うと、友香は我に返ったように佐々木から身を離した。
「あ、ごめんね、周ちゃん」
 涙に濡れた目で直子を見つめ、友香は直子に向き直った。
「もともとジャスト・エージェンシーにいたんやけど、去年俺が独立する時、俺が頼りないからって、彼女出向させてくれたんや。池山直子さん。こう見えて、ビシバシフォローしてくれるからマジ助かってる」
「はじめまして、森野友香です」
 マフラーを取り、コートを脱ぎながら佐々木が直子を紹介すると、友香はぺこりと頭を下げた。
 その笑顔は無邪気で、不思議と人を和ませるような雰囲気があった。
 周ちゃんがお世話になってますなんて言われたら、どう切り返してやろうなどと考えていた直子だが、さすがにそこまで厚顔無恥ではないらしい、と心の中で不遜に呟く。
 だって、そうじゃない? 何が、来てくれないかと思った、よ! 自分で佐々木ちゃんのこと振っておいて、佐々木ちゃんがどんなに苦しんだと思うのよ!
 とは、かろうじて口には出さなかったものの、つい、険のある視線を友香に向けてしまう。
「へえ、また一段と豪快になったな」


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