好きなのに 33

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 ツイードのコートを手に愛想よく入ってきた藤堂に、ギャラリーのスタッフが応対する。
「あ、藤堂さん、浩輔ちゃんも来たんだ?」
 直子は席を立って藤堂たちに歩み寄った。
「直ちゃん、今日はまた一段と素敵だね。佐々木さん、こんばんは」
 藤堂は直子や佐々木に声をかけてから作品をじっくりと鑑賞し始めた。
「ああ、トモちゃん、あの方は青山にあるギャラリーの方なんだよ。あとで紹介するよ」
 佐々木は友香にそう言うと、優しく微笑んだ。
「うん、ありがとう」
 ダウンジャケットを取ると、浩輔は佐々木に軽く会釈をして、藤堂のあとについて絵を見ていく。
 最後に入ってきた悠は、ジャケットを脱ごうともせずすぐに絵に引き込まれたように、ものも言わずに作品を見つめている。
 フェルナンドとアナは、少し外に出てくると友香に言って、ギャラリーを出て行った。
「『創造』誌に早野貢氏が書かれた論評、読みました。酷評が信条の早野氏にいいアートと言わせたあなたの作品、拝見させていただきました」
 佐々木に友香を紹介された藤堂は、名刺を渡してからそう言った。
「大胆なマチエールだが、見ている者に心地よさをくれるような、そんな感じを受けました」
「ありがとうございます」
 少しはにかみがちに友香は微笑んだ。
 その時ようやく最後の作品を見終えた悠がやってきて友香を見た。
「あ、森野さん、こちら、五十嵐悠氏です。同じく『創造』誌上でいろいろ書かれていますが、さきゆき頼もしいアーティストですよ」
「五十嵐です。俺、前に本でスペイン時代の作品見てから、ずっと実物見たいと思ってました」


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