好きなのに 60

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 出掛けに母の淑子と出くわしたので、綾小路の別荘にスキーに招かれたと告げた。
「くれぐれも失礼のないように」
 はあ、と思い出した母親の厳しい目につい溜息が出る。
 それをひけらかしたり驕ったりするのは卑しいと、そうそう口にしたりはしないが、淑子には旧華族それも摂家の生まれという矜持がある。
 綾小路家も清華家の家柄だが、実は淑子の実家は綾小路家より家の格的には上ということらしい。
 子供の頃、そういったことで淑子に訓戒を受けたことがあり、お前はその血筋の者なのだからそれに恥じないように、と言われ、はい、とは答えたもののよくはわかっておらず、二十歳になった時だったか、再び同じようなことを言われた佐々木は、いや、俺、どちらかというとオヤジの血筋の方がようけ出てるみたいやし、などと答えたところ、火を噴きそうな目で怒られたため、なるべく母親には逆らわないようにしている。
 家柄的にはどうでも、明治時代隆盛を極めていた綾小路家は、第二次大戦後、財閥の解体、華族廃止などでかなりのダメージを受けたものの、財産税などで多くの華族が没落する中、延納で土地を守り、デフレ不況も縁者である商才にたけた旧財閥出の片桐とともに切り抜け、やがて土地価格の高騰もあって財を増やし、現在の東洋グループの礎を築いたのである。
 逆に淑子の実家はいわゆる没落華族で、ただ、その血筋を求めてくる資産家へ娘を嫁がせたり、逆に資産家の娘をもらったりして何とか食いついできたような家である。
 母親も叔母の篤子もそうやって東京や横浜に嫁いできたものの、篤子は穏やかな夫と幸せな生活を掴んだが、淑子はお坊ちゃん体質のある意味だらしない夫に辛酸を舐めさせられた。


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