好きなのに 61

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 今ならそんな旦那、とっとと見限って離婚しているところだろうが、矜持と気丈が服を着て歩いているような淑子にはそんなことは考えも及ばなかった。
 父親が女にだらしなかったことは佐々木も子供心に知っているが、そんな淑子には頭が上がらず、つい女に走ったということもあるかもしれない。
 淑子の前ではそんなことは口が裂けても言えないが。
 最初は地主で財もそれなりにあったようだが、商才もなく女にもつぎこんだのだろう、たちまち佐々木家は傾いた。
 土地や資産はまだあるものの、日々の食い扶持にも困った淑子は、そこで京都からついてきた乳母のさわのの進言を受けて茶道を教え始め、綾小路の当主の後妻に来た佐保子がそれを知って知人友人をひきつれて門を叩いたらしい。
 これらは全て叔母の篤子から聞かされたことだが、そういった色々な理由もあって、綾小路に対しては、淑子の「くれぐれも失礼のないように」という言葉につながるわけである。
 しかしはっきり言って、佐々木にしてみればそんなことはどうでもいいことだし、商才のなさはやはり父親譲りではないかと密かに思っている。
 ともあれ、あらゆる理由から、お隣であるはずの綾小路との間の敷居が異様に高く、学校も違っていたせいで子供の頃から滅多に交流もなかった綾小路と、ここにきて仕事絡みから図らずもつきあうことになってしまった、というわけだ。
 佐々木も良太の言い分ではないが、しゃっちょこばるのは母親の前だけで御免被りたいところだ。
 良太には言わなかったが、イベントが終わった後ではあったものの、その初釜には佐々木も招待されていたのを、仕事で動けないと断ったのだ。
 本当は沢村と箱根に行っていたのだが。
 思考はまた沢村のことに辿り着く。
 沢村からの電話を待ってしまうのが嫌で、このスキーツアーに参加したのだが、言い争いをしてから沢村からの連絡は全くない。


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