好きなのに 65

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 一呼吸置いて直子は小声で続けた。
「あいつ、ここに来た初っ端から千雪さん口説こうとして、京助さんにどやしつけられたのよ」
「ああ、小林先生? 確かにそんじょそこいらにはいない美形やもんなぁ、あの人」
 大和屋のイベントを手伝っていた小夜子の従弟で原というネームプレートをつけていた美貌の主が、ミステリー作家の小林千雪だとは、最近知ったことである。
「それがねぇ……」
 直子が何となくもったいぶっている。
「何かあったん?」
「実は、すごかったんだ、京助さんの怒りよう」
「ああいう、チャラ男が嫌いなんやろ」
「それが違うの」
「違う?」
「てめぇ、俺のモンにちょっかい出すたぁ、いい度胸だな、って」
「え? はあ?」
 一瞬、佐々木はその意味を理解しかね、次には京助はそう言ってあの男を千雪から遠ざけたのか、とも考えたのだが。
「もう、みんなびっくりよ。それがほんとに言葉通りみたいで、アスカさんから聞いたところによると」
「確か、あの二人って、警察に手を貸して事件に関わったりして、名探偵コンビとか巷で言われてたっけ」
「佐々木ちゃんにしては、よくできました。びっくりだよねぇ………でもあれだけの人だと無理ないかもねぇ、京助さんが夢中になっちゃうのも。佐々木ちゃんに出会っちゃった沢村みたいに」
「……おいおい、俺はそんな……」
 沢村という言葉に、つい過剰に反応してしまう。
「沢村っちにちゃんと電話してあげてる? 可哀相だよ、佐々木ちゃんに会いたくても一人で頑張ってるのに」
「わかったわかった」


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