好きなのに 68

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 佐々木もちょっと興味をそそられる。
「ほら、あっちのリビングの壁、原夏緒の『紫陽花』」
「え、ほんま?」
 悦子が指し示した壁を見るために佐々木が立ち上がると、ぞろぞろと悠や直子たちもついていく。
「ほんまや」
 十五号の小さめの日本画は、いかにもさり気なくだが大切そうにそこにあった。
「トモちゃん見たら喜ぶやろな、彼女も好きやったんや。ここの何ともいえん淡い青紫がええよなぁ」
 佐々木は思わず口にする。
「向こうにはラピコフ、で、あっちの部屋にも原夏緒の『向日葵』とか。こんなとこで、こんな貴重な絵を見られるなんて思わなかったですよ」
 いつの間にか浩輔もやってきてそう言った。
「思わず探検しましたよ、屋敷中。庭にはヘンリー・カーンの彫像があるし、向こうの客間には、佐藤高峻のブロンズ」
 浩輔に同調して高津も腕組みをしながら癖で顎鬚をいじる。
「こりゃ、探検しがいありそやな」
「それにすんげぇんだ、小林千雪って原夏緒の息子なんだって」
「え…」
 悠のひとことに佐々木も振り返る。
「あ、そっか、大和屋って、原夏緒の生家か、どこかで見たことある思てたんや、小夜子さん、原夏緒に似てるんやな。日本画壇を語るにはなくてはならない逸材やった。美人薄命てほんまやな」
 なるほど、と佐々木は合点する。
「佐々木ちゃん、ほんと、世間に疎いよね。だから小夜子さんの従弟の名探偵小林千雪はミステリー作家にしてT大の助教、そのお母さんは日本画家の原夏緒、お父さんは著名な日本文学者で元K大教授、お二人とも故人」
 小林千雪のプロフィールをさらりと直子が語る。
「あ、そ、か。……よく、わかりました、ありがとう。そっか、小林先生は原夏緒によう似たはるんや……」


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