好きなのに 79

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 T大の助教というよりもその辺の学生に紛れてもわからない雰囲気だと佐々木は千雪と話しながら思っていた。
「そうそう。ぎょっとする、ってか、怖いけど面白いのが、ファイロ・ヴァンスの『グリーン家』とか」
「ああ、俺もよう読んだなぁ、『ビショップ・マーダー・ケース』とか」
「それ、俺も好きで何度も読んだ」
 『ビショップ・マーダー・ケース』というキーワードに、そういえば沢村もミステリーが好きだとか言っていたな、などと佐々木は思い出す。
 あれは確か、初めて会った翌日だったか。
 何だか随分昔のことのように懐かしい。
 こんな風に話せるだけでもええのにな、トモと……。
 俺がもっと野球のことに詳しかったら、もっと話せたんかしれんけどな……
 つい、そんなことを考えてワインをハイペースで飲んでしまった。
 せや、酔いにまかせて、電話してみようか……
 少し飲みすぎたので頭を冷やしてくると直子に言って、佐々木は立ち上がった。
 足元は大丈夫だが、いい気分、ということは結構飲んだみたいや。
 人のこないところで、とリビングを出て玄関ホールまで来てみると先客がいた。
 同じようにコソコソ携帯で話していたのは良太だった。
 宴もたけなわという頃、ふと窓の外を見て吹雪いているのに気づいた良太は、携帯で気象情報や交通情報を確認すると、空の便はいくつか欠航が出ているのを知った。
「おい、明日もこの調子だと、沢村、絶対無理だぞ」
 一応、雪は明日の朝までで小降りになるらしいのだが。
 まさか、来ないだろうな、と心配になった良太は、リビングを抜けて階段の下まで行くと沢村をコールした。
「あ、俺。うん、こっちはまあ楽しくやってる。佐々木さんももちろん。それより、お前、本気でこっちに来るつもりか?」


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