笑顔をください 19

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 この四月に親父がまた海外行っちまったんで、と七海は平らげた弁当箱を志央の分の弁当箱と重ね、ぞんざいに風呂敷に包む。
「でも志央さんのおかあさん、弁当作ってくれないんですか? 確かお料理の先生じゃ…」
「親父は俺の小学生の時、女作って出てったし、母親は料理学校を運営するのに一生懸命で、都内に部屋があるからめったに帰ってこない。姉がいたんだが三年前に死んだから、今は一人暮らしだ」
 七海は投げやりな言い方をする志央の顔をちょっと見つめていたが、「寂しいですね」と、静かな口調でポツリと口にした。
「バカいえ、一人でやりたい放題だぞ。週イチでハウスキーパーがきてくれるから、楽だし」
 そんないい訳じみた言葉では、何だか、七海の犬コロのように陰りのない瞳はごまかせないような気がする。
 出会って間もない、ろくに知りもしない相手に。
 同病相憐れむみたいに言われるのが大嫌いなはずなのに。
 寂しい、なんて、忘れていた。
 忘れようとしていた言葉だ。
 父親や母親がいなくなっても、美央がいてくれた。
 美央だけはずっと一緒にいてくれると思っていた。
 ずっと二人だけでやってきた。
 美央が世界そのものだった。
 美央さえいれば誰も要らなかった。
 それなのに…。


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