笑顔をください 42

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 志央は我に返ったように、南側の部屋のドアが少し開いてピアノが見えているのに気づいて、慌てて閉める。
「俺じゃない。美央が弾いてただけだ」
 いつドアを開けたのだろう。
「美央さんって、亡くなったお姉さん…」
「ああ」
 志央は不機嫌な返事を返す。
 三年前の美央の死はあまりに突然で志央にとって受け入れがたいものだった。
 当時、どこにも美央がいないという喪失感が重く志央を支配し、息を止めるくらいの勢いで襲いかかった。
 幸也が部屋から連れ出してくれたが、夜の町を飲んで騒ぐ日々に明け暮れながらも部屋に戻れば、美央の死は夢で、美央が自分を叱りつけてくれるに違いない――。
 儚い期待は日ごと裏切られ、心から号泣することもできないまま、幸也が時折勝手にやってくる以外誰も家に上げたことなどなかった。
 何でこんな賭けなんかのために、こんなやつ家に入れたんだろう。
 ふと、現実に立ち戻った志央は苛ついた。
 美央の愛したピアノは、彼女が逝ってしまってから弾き手を失ったままだ。
 きっと世界中で一番愛していた。
 幸也と一緒に遊びまくっても、美央を失った心の隙間を埋めてくれる者は誰一人としてなかった。
「でも志央さん、亡くなった人を思って悲しんでいるばかりじゃ、自分も半分しか生きてないようなもんですよ。いつも見守ってくれていると思って、人生楽しまないと」


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