笑顔をください 44

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 まだ笑っている志央を横目に、七海は眉を八の字にして弁明する。
「あ、今度、このローズマリーとか入れてシチュー作りましょうか」
 ローズマリーの細い葉っぱを摘んでいる仕草に、古い情景が志央の頭の中に唐突に蘇る。
 あ……そっか――。
『虫がいる、潰しちゃえ』
『こら、ダメ、志央』
 ローズマリーの葉っぱに擬態している虫を見つけた志央がそれを摘もうとすると、美央がコンと志央の頭を小突いた。
『こんな一生懸命生きてんのに』
 志央が中学に上がったばかりの頃だった。
 美央はわざわざそのローズマリーの鉢を鎌倉の祖父の家の庭まで持っていって植え替えた。
 今では巨大な茂みになっているはずだ。
 何に対しても優しい……。
 どこかで見た気がしたのは、美央だったんだ。
 優しい笑顔……。
「志央さん、どうかしましたか?」
 どうしよう。
 何か、やばい気がする。


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