優しい目が志央を見つめている。
「バッカいえ…お前、俺を買いかぶってるよ」
志央は言い捨てるように傍にあった石ころを蹴飛ばした。
「志央さん」
突然、目の前が暗くなる。
七海のガクランに顔を押し付けられたと理解した直後、ぐいと顎を掴まれ、志央は上向かされる。
「七…海…」
呟く志央の唇はあっという間にふさがれる。
いつもの甘いキスだったのが、次第に深くなっていく。
「な…七海…! ダメだ、七海」
ふっとようやく唇が離れ、志央は息をつく。
「何がダメなんです?」
「何がって…」
「俺、志央さんのこと、もっと…好きになっちまいました」
違う。
お前はほんとの俺を見てるんじゃない。
俺は幸也と賭けをしてそれで、好きだと、そう言わせるためにお前に近づいたんだぞ!
志央の心の中でどろどろした思いが渦を巻く。
「七海…」
七海を思い切り利用してるのは自分なのだ。
そんな一途な目で見てもらえるような男ではないのだと。
「言うな…。そんなこと、俺に言っちゃいけない」
「どうして? ほんとです。ほんとに好きなんです。もう、このまま志央さんのことかっさらってどっか雲隠れしたいくらい」