笑顔をください 78

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 幸也が自分を棚に上げて皮肉った。
「人聞きの悪い。あの時は練習する暇もなく迎えた発表会だったから、じいさんの顔をつぶすことにならなくてよかったんだ」
「くだらない話をしている場合じゃないでしょう? 城島さん」
 後ろから呆れかえった勝浩が口を挟む。
「ちなみにあなたにかえるを投げつけられて演奏を中断させられたのはこの俺でしたけどね」
 志央もさすがに二の句が告げない。
「え、それは、知らなかった…いや、すまなかった…。あ、じゃあ、堺、弾けるんだろ?」
 すぐに気を取り直して、そう提案してみるが、「ショパンなんて無理ですよ」という答えが返ってくる。
 プログラムの演目はショパン。
「とにかく、誰か、ピアノ、弾けるやつ…」
「七海なら弾けるみたいだけど…」
 勝浩から思いがけない提案がなされる。
「確か、あいつ幼い頃からピアノをやっていて、かなりの腕みたいだし…」
「七海が…?」
 志央は躊躇する。
 きっと俺のことを軽蔑している。
 七海が簡単に引き受けてくれるわけ……。
 しかし、生徒会長の仕事として七海と口を利くことができることが、嬉しくさえ思える。
 七海は裏方として手伝いながら、その日も舞台の脇で堺のナイトの役割を果たしていた。
 志央が要望を伝えると、むっとした表情を向けていた七海だが、「別に、いいですよ」とぼそっと口にする。
「演目はプログラムに関わりなく、君に任せる。この際、『猫踏んじゃった』でも、俺が弾くよりマシならかまわないから」


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