笑顔をください 9

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 桜の木の下にさしかかった時、目の前に下がった枝を手でのけようとして、ふいに男が窓を見上げ、志央はその男とばっちり目が合ってしまった。
 食い入るように見つめられ、思わず志央は窓から離れる。
「こいつはおもしろくなってきたな」
 にたり、と笑う幸也の横で、志央はたった今生徒会室の下の玄関に消えた人間の残像を頭の中で追う。
「待て、待て、待て…いくらなんでも…」
 げげっ! あんなタコ坊主相手に、キスしろだと――?
「男に二言はないんだろ? それとも、潔く負けを認めるか?」
 ううっと、志央は唇を噛む。
「ああ、二言があるものか! 一ヵ月以内だからな」
 つい負けず嫌いの性分が仇となる。
 くっそ、どう考えても勝算は見えないぞ。
 志央は今さっき口にした宣言を既に撤回したくなっている。
 ひと吹きの風が桜の枝葉をなぶり、ついでに志央の心をも大きく揺らしていった。
 
 


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