笑顔をください 93

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 躊躇した桜庭は、ほんのわずかな隙に七海に引き擦り込まれた。
「うわあっ!」
 桜庭が座っていたのは時計塔の縁だった。
 間一髪、もう少し遅ければ、桜庭は完璧まっ逆さまに土の上に叩きつけられていた。
「さあ、志央さんはどこだ?! あいつって誰だ? どこにいる? 吐け! 吐かないと、ここから俺が突き落としてやるぞ!」
 七海は桜庭の胸倉を掴み、問い詰める。
「わあ、やめてくれ! わかった、話す!」
 七海の形相に、たった今死のうとしていた男は、恐怖で震え上がった。
 その時、ぴぴ…ぴぴ…と、急に鳴り出した携帯に、七海は自分のポケットを探る。
「まさか、志央さん!?」
 明らかに志央の携帯番号だが、ものも言わず何か物音がするだけだ。
『やめろ! 放せってるだろ!』
 やっと聞こえてきた声は思いも寄らない叫び声だ。
「志央さん?! どこだ?! どこにいるんだ、志央さん!」
「おい、藤原、そこにいるのか!?」
 幸也や勝浩たちが駆け上がってきた。
「待って…」
 勢い込んで聞く幸也を制して、七海はじっと耳を済ませる。
『ここは立ち入り禁止だ。誰もきやしない』


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