笑顔をください 99

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 その背中にすがりそうになり、志央は無理やりまた顔をそらして唇を噛む。
 こいつに、そんなこと言える義理じゃなかったんだっけ。
「何で」
「…え?」
 志央は顔を上げる。
「俺の名前なんか、呼んだんです? おかげでみんなにあんたと俺のこと疑われてしまいましたよ」
 背中を向けたまま、七海が口にする言葉は、志央の心にひとつひとつ突き刺さる。
 言葉を失い、体を動かすこともできない志央を置いて、七海はさっさと玄関に向かう。
 待て…
 七海……!
 言葉が出ない。
 なのに追いかけずにはいられず、志央は裸足のまま玄関に走る。
 七海は膝をついてスニーカーの紐を結んでいた。
「な…なみ…」
「何ですか?」
 振り返った七海は、この上ない冷ややかさで志央を見つめる。
 全身が凍えそうになる。
「…わ…かったよ…!」
 七海の目にはもう、俺なんか映ることはないんだ。


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