いつか逢えたら 1

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 日本列島は二月に入ってまたマイナス三十度からの寒波に覆われていた。
「北海道や日本海側では大雪が予想され…………」
 テレビの天気予報に耳を傾けながら、堺勝浩はコーヒーを飲み終える。
「こら、アッ君、ミコちゃんに意地悪しないの」
 テーブルの周りでは、中学校二年の弟彰が小学校三年生の妹美湖と、ひとつしかなかったヨーグルトをめぐって二人で争奪戦を始め、洗い物をしている母がそれを注意する。
 堺家では見慣れたいつもの風景だ。
「ほら、お兄ちゃんの邪魔しないのよ」
 勝浩は自分の使った食器をシンクに持って行くと、詰襟の学生服の上に椅子の背にかけてあったコートを羽織る。
「行ってまいります」
 玄関でスニーカーを履いていると、「カッちゃん、今夜は遅くなるの?」と母の声が追いかける。
「いいえ、今日はいつもどおりです」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
 心配性の母は十年来、そうやって勝浩を送り出している。
 母の裕子が勝浩の父親、義勝と結婚したのは、十年前、勝浩が小学校二年生の春だった。
 勝浩を産んだ母は、物心つく前に他界したので、勝浩は顔も覚えていない。
 勝浩は一緒に暮らしていた祖父母に厳しく躾けられた。
 その祖父母も勝浩が小学校に上がる頃、相次いで他界し、仕事で忙しい父がいない時は、当時勝浩のピアノの先生だった今の母裕子が、彼にとっては心のよりどころだった。
 裕子はその頃、夫を事故で亡くし、三歳の彰を抱えながら自宅でピアノ教室を開いていた。


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