月で逢おうよ 29

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 わかるようなわからないような理論で、小学生の質問を煙に巻くと、少年は持っていたサッカーボールを取り出して、「やるか?」と聞く。
「だーって、こんな狭くて、こんなブタだとかクマだとかが埋まってるとこで、できねーじゃん」
 確かにその公園はブタやクマが形作られ、地面に埋まっているし、その他にも滑り台やブランコなどがあって、とてもサッカーなんかできる場所はない。
 すると、少年はチッチッチ、と指を振り、「頭使えよ、頭。いいか、見てろよ」と言ったかと思うと、コートを脱いで鞄と一緒にベンチに放る。ボールを足元に落とし、ブタやクマの間をドリブルして走る。ブランコを潜り抜け、滑り台の下もドリブルしながら潜り抜ける。
 小学生の間から、「すげぇ」と歓声があがる。
「やってみるか?」
 少年が尋ねると、小学生が「やるやる」「俺も」と少年の元に走り寄る。
 そのようすをしばらく見つめていたが、勝浩は思わずベンチに近づいた。鞄と一緒に無造作に置いてある黒いコート。
 ようやく、少年が誰であるか、思い当たった。
 長谷川幸也だ。
 忘れもしない、小学生の時、城島志央と一緒に勝浩に散々悪ふざけをした上級生。子供のくせにやけに大人びて見えた。
「近頃の先生は何を教えてる、だって、笑わせるよ。いじめっ子はお前じゃないか!」
 だが、その日のことが、何故か心に残った。
 それから時折、塾への道すがら、その公園を通るたびに、子供たちと遊ぶ幸也を見ることがあった。あとになってわかったのだが、志央がお習字にいっている間、幸也はそこで時間をつぶしていたらしい。


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