月で逢おうよ 36

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「こういう車で、サイドシートが犬を抱いた男、って面白くない図ですよね」
 沈黙に耐え切れず、勝浩は口を開いた。
 美利と大杉は猫を連れて垪和のワゴン車に乗り込み、ロクは後部座席に陣取った。幸也の運転するアウディのサイドシートにおさまったのは、ユウを抱いた勝浩だ。後部座席にはビッグがおとなしく乗り込んでいる。
「やっと口きいた。勝浩、何か怒ってただろ?」
「別に」
「とかいいながら、目が笑ってないし」
「こういう顔です」
 くっくっと笑う幸也を横目に、勝浩はまたムッとする。
「そういえば、犬とか猫とか飼ってるんですか?」
 そんな話聞いたことはなかった。いや、そもそも幸也について噂や聞いた話以外に自分が知っていることなどないのだと、勝浩は改めて思う。
「おや、知らなかったっけ? 俺んち、物心ついた頃から、たくさんいたぜ」
「知りませんよ、長谷川さんちに伺ったこともないんだから。でも、じゃ、検見崎さんとこと一緒ですね」
「ああ、やつんとこもいるな……」
 軽いハンドルさばきで、幸也は車を走らせる。
「何だ、何だ? そんな難しい顔して。俺の運転は折り紙つきだぜ、心配しなくても」
「そりゃ、高二の時から運転してれば、うまくもなるでしょ」
「おい、そんなのもう時効だろ?」
 苦笑いを浮かべて、幸也は勝浩を横目で見やる。
「検見崎さんとは、随分親しいお友達なんですね」
「お友達ってほどのもんじゃないがな」
 ほどなく車は世田谷の老人ホームに着いた。
 残暑は厳しいが天気にも恵まれ、参加者は誰もが嬉しそうに動物たちに触れ、メンバーとも親しげに言葉を交わしている。
 思った以上に幸也は一生懸命老人たちに応対している。
 そんな姿を見ると、車に乗っているうちずっとふてくされてしまったことを、勝浩はちょっと後悔した。
 俺、何やってんだろ。
 何やら可笑しなことだが、せっかくこんな風に幸也とまた一緒にいられるっていうのに。
 二匹の猫は室内で、犬たちは戸外でお年寄りたちに愛想を振り撒いている。
「こら、クロ!」
 そろそろ時間かな、とぼんやり幸也の方を見ていた勝浩は、窓の隙間から飛び出してきた黒い塊を認めた。


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