月で逢おうよ 56

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 ベランダに出て空を仰ぐと、雲もなく月がひどく明るく輝いている。月の光を浴びた木立は青い影を落とし、柔らかな風に揺られて夜の森は嬉しげにうごめいているようだ。
「すんげえ月。俺が焼いたホットケーキみてぇ」
 背後からそんな声がした。
「それ、宇宙開発やろうとかいう人が言う言葉ですか」
 振り向かなくても、昔から聞きなれた声だ。
「見たままの素直な感想」
 手にあるグラスの中はウイスキーか何かだろう、一口飲むと、幸也は勝浩の横に来て、手すりにもたれかかる。
「ホットケーキなんか焼くんですか?」
「向こうで、癖になってたな。ブランチの定番メニュー。今度、作ってやるよ、うまいぞ」
「……そうですね。楽しみにしてます」
 さりげなく会話を合わせるくらいはできる。
 けれど、そんな幸也の言葉に、一喜一憂している自分の心に時々ついていけなくなる。
「こうして空見てると、ほんとに自分がちっぽけだって痛感しますね。地球もこの広い宇宙の中のほんの小さな星なんだから」
「塵芥にも匹敵しないってとこかな、宇宙の中の人間の存在なんて。地球は宇宙っていう海の中に漂うプランクトンで、するってーと、人間はそれよりもっとミクロなしろものってことか」
「宇宙って膨張してるって、きいたことありますけど」
「ビッグバンね。まあ、そのミクロな人間はいろんな理論を打ち立ててみるのさ。実際解明するのは限りなく不可能に近いわけだから、勝手に想像するのは自由だろ」
「そうですね」
 勝浩は笑う。
「ガキの頃から、よく考えてたな。宇宙の果てまで行ってみたいってさ。こう、ワープとかして、星が誕生するとことか、死滅するとことか、この目で見て見たいね」
「何だか、ちまちまあくせくしているのが、バカみたいだな、ミクロな人間たちが」
「バカ言え、お前らしくもないぞ。動物の生命を考えていこうってお前が。どんなミクロなやつにも主義主張ってもんがあるってことだろーが」


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