月で逢おうよ 7

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 九月も半ばを過ぎたにもかかわらず、続く猛暑は半端ではなく、通り雨もたいした清涼剤にはならなかったようだ。
 クラブハウスを出た途端、むせるような木々の匂いが熱気を伴ってまとわりついてくる。
 でも充実しているよな、と勝浩は心の中で呟く。
 犬や猫たちも、会のみんなもいい関係だし、ホームでおじいさんやおばあさんたちが喜んでくれているのを見るのはとても嬉しいし。
 大学に進学してから親元を離れ、都内で一人暮らしを始めた勝浩だが、大家は庭にくる野良猫たちにご飯をあげたりする動物好きの優しい老婦人で、離れを借りている勝浩が犬を飼いたいといっても、快く許してくれた。
 検見崎の紹介で始めた編集部のバイトも時々忙しいが、何の不満もない。
 何もかもが、うまくいっているはずだ。
 けれど、何をもっても満たすことのできない、心の中の空洞を時折感じることがある。
 どこかでかなうはずのない期待をしている自分がいるからだ。
 
 ―お前にやるよ。その代わり、風邪治せ――
 
 おそらくほんのきまぐれだったのだろう、あの人からもらったマフラーは、あの日の、たった数十分の時間と一緒に引き出しの中にしまってある。
 学園を卒業するまで、勝浩にとってはずっと昔から苛めっ子でしかなかった幸也だ。
 だけどいつの間にか、長谷川幸也という存在は、それこそバレンタインデーに渡せるものならチョコでも何でも渡したいただ一人の相手になっていた。
 もし、幸也の心の中に想い人がいなければ。
 高校の卒業式、生徒会長として、在校生代表として送辞を読み上げながら、輝かしい未来に向かって歩いていってほしい、とそう願ったのは幸也のことだった。
 あの人のことしか考えていなかった。


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