月で逢おうよ 9

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「勝浩、そろそろ終わる? 俺、この辺で切り上げるけど」
 後ろの席で煙草を吸っていた検見崎が声をかけてきた。
 時計の針は午後九時を少しまわろうとしているところだ。
「うん、もう少し。いいですよ、検見崎さん、先に帰ってください」
 画面に見入ったまま答える勝浩の仕事は、ここ光榮社「the あにまる」編集部から発信されるホームページの制作だ。
 もともとこの編集部で既に編集の仕事に携わり、ページも持っている検見崎は、仕事が忙しすぎたお陰で一年留年しているが、その実績を見れば、フリーならプロとして十分やっていけるものだ。当然本人は卒業後は編集の仕事に進むつもりらしい。
「卒業できなくてもね」
「なーに言っちゃって。お前、父親が新洋社社長なんだし、いつでもいくらでも社員になれるくせに」
 いい加減なことを言う検見崎の言葉を聞きつけて、橋爪編集長が意見する。
 橋爪は十年前、光榮社に移籍した元新洋社の社員だ。財政難に頭を抱え、時々爆発して、やたらめったら怒鳴り散らすことはあるが、割と柔軟な考え方の持ち主である。
「俺はフリーでやるの。社員なんて堅苦しいこと、できるか」
「ばーか、下積みも経験しないで、フリーなんて、えらそうなこと言うんじゃない」
 口をへの字に曲げ、丸めた雑誌で検見崎の頭をぽかりと叩く。
「ってーな、あのね、そうゆう古臭い日本人的発想が、若い連中の自由な意識の邪魔をしてんの。わかる?」
「わかった風なことを。ああ、もう、いいから帰れ。入稿、終わったんだろ」
 勝浩は、会社は小さくても、この「the あにまる」という雑誌の、動物の真実を、動物の目線から見て伝えようという主旨が気に入っていて、検見崎からバイトに誘われたときすぐに承諾した。仕事も面白くなってきている。
「俺は、勝浩くんを待ってんの」


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